「成長株投資 将来のインカムゲインを求めて」1. Kids Smile Holdings(キッズスマイルホールディングス)
イオンフィナンシャルサービスでの反省
過去に減配された経験の無い高配当銘柄ならば、今後も減配されない……というのは幻想であって、確実な保証がある訳ではありません。
イオンフィナンシャルサービスで起きた惨劇はインカムゲイン投資を主軸とする投資家にとっては、痛撃となりました……。
配当利回り6~7%の高配当銘柄で、東証1部の大手企業傘下の金融サービス系かつ上場以来減配の経験がない企業でしたので、インカムゲインを好む投資家なら、誰でも気になった銘柄では無いでしょうか。
イオンFS—急落、今期の大幅減配計画など嫌気
イオンFS<8570>は急落。前日に第1四半期決算を発表、営業損益は8.6億円の赤字で前年同期比145億円の損益悪化となっている。海外での貸倒引当金積み増しなどが大きく影響した。新たに公表した通期営業利益予想は100-200億円のレンジとしており、500億円超の市場予想を大きく下回っている。それに伴い、年間配当金も前期の68円に対して23円の計画へ。大幅な減配にはネガティブなインパクトも強いようだ。
https://kabutan.jp/stock/news?code=8570&b=n202007090557
しかしながら、こうして減配が発表され、その幅が強烈なものであれば現実問題として、株価は暴落してしまいます。業績も配当も悪ければ、買う材料が見当たりませんから。
唯一、イオンフィナンシャルサービスを買える材料としては親子上場の解消で、イオン本社が株式公開買付でイオンフィナンシャルサービスを吸収してしまうことが期待されるぐらいです。
親子上場解消期待感もあるが……
株価が1000円の大台を割り込み、年初来安値を更新したPBR0.5倍台ならば、イオン本社としても見過ごせない可能性があります。親子上場の問題点を指摘されていることもありますし、実際に株式市場では親・伊藤忠商事、子・ファミリーマートの間による、TOBが実施されて株価が高騰する例があります。
今後も、この流れが流通企業へ波及すればイオングループは数多くの上場子会社を抱えていますので、まずは株価が暴落したイオンフィナンシャルサービスからTOBが実施される可能性も十分にあると思っています。
たしかに親子上場解消で株を持ち続けるのは有りだと思います。業績も来期にはそれなりに回復するでしょうし、配当もそれに伴い戻っていく可能性があります。
ただ、1年は長い。期待を裏切った株式ならばさらに下落を続ける可能性もあります。含み損を抱えて長期塩漬けにする決意と、塩漬けによってこの1年のインカムゲインを放棄する覚悟が要ります。
もし同じインカムゲインが期待できないのならば、その一部の資金を同様にインカムが期待できない「成長株」へ振り向けても良いのでは無いか……。
そう考えて、前回3銘柄を記載しました。そこで今回はそのひとつ「Kids Smile Holdings(キッズスマイルホールディングス) 7084」を見ていきたいと思います。
キッズスマイルホールディングス、PER5倍の成長株
新規上場を果たしたばかりの株ですが、PERだけを見れば極めて割安な水準にあります。株価は1900円~2000円でもみ合いを続けており、この株価レベルならばPERは5倍前後となります。

今期業績は未発表となっておりますが、四季報夏号では374円の利益を見込んでいる為、7/13の終値1916円でみればPER5.15倍となっております。

保育園新規開設数に依存する収益構造
ただ、四季報の数字でも分かるように2020年3月期の営業利益はマイナスなのに対し、経常利益は20億円近い利益を生み出しています。この収益構造のアンバランスさをきちんと理解する必要があります。

経常利益が膨らむのは営業外収益が大きく貢献している為です。具体的に見てみると補助金収入がその殆どを占めております。
この補助金とは「認可保育園の新規開設に掛かる工事費の補助金」とのことで、これを「一括して新園の開園初年度に計上するため」(Kids Smile Holdings[7084]東証マザーズ IPO)経常利益が膨らんでいるとのことです。
つまり、この会社の実態は新規保育園を開設して、それに伴う補助金で利益を出している企業と言えます。
営業損益が赤字である一方、経常利益が大きく膨らんでいるのはこうした利益構造があるためで、この後に保育園の新規開設が減少すれば、営業外収益もそれに伴い減っていくことが容易に予測されます。
では、今後の保育園の新規開設数はどうなっているのでしょうか?

これを見ると、残念ながら今後は減少が見込まれております。キッズスマイルホールディングスの現在での収益構造は営業利益段階では赤字となっており、それを新規保育園の開設に伴い受け取れる補助金で大きく打ち返す形となっております。
具体的な数値としては、2019年3月期に約21.7億円の補助金収入、2020年3月期でも約22.8億円の収入があり、利益の大部分を占めています。

つまり、新規開設が前期の14園以下が継続されてしまうことで、経常利益の下振れ懸念が生じてしまいます。特に、今期の新規開設数は10園であり、残念ながら補助金収入は減少することになります。
増加する営業利益と営業外損益の縮小が綱引き
補助金収入の減少が続くであろうと見込まれるキッズスマイルホールディングスですが、ではこの会社への投資は控えた方が良いのでしょうか?
私はそうは思いません。新規開設は確かに減少するでしょうがそれは収益の正常化の過程とも言えます。本業の営業損益が赤字で、補助金で大幅な黒字を出す企業は長続きするとは思えないからです。
一方で、これまで開設してきた保育園では園児数が順調に増えるものと考えられます。園児数の増加につれて、売上の中心である保育料収入が増加する形で積み上がっていくことが期待されるため、営業利益と経常利益のアンバランスは将来的に解消されていくものと思われます。

会社側もこうした図表を出しており、新規開設数が落ち着くことで、補助金収入は落ち込みますが、反対に売上原価の低減、販管費の適正化が進むことで利益率の改善による、営業利益の増加が見込まれます。
経常利益が落ち込むもののその後増加に転じる、と記載の通り、収益が正常化していく最中にあると言えます。
そもそも、この会社の成長度合いは一過性の補助金を含めた経常利益よりも、本業の営業利益の増減で測るべきでは無いかと思います。
2020年3月期業績は、上場時の予想よりも上方修正で着地
この会社に期待している点は、上場時の予測よりも高い数字を出してきたこともその一つです。初めから期待を裏切るIPOが多い中、自らが開示してきた数字よりも、良い決算を出したことで、今後の業績予測も信頼できる基盤ができたのではないかと思います。

コロナ禍の影響は?
決算短信の記載には以下の2点が記載されています。
- 認可保育所は毎月月初の在籍園児数に応じて補助金が交付される制度となっていることから、業績への影響は軽微であると見込んでおります
- プレスクール一体型保育所(認可外保育施設)におきましては、利用率が下がり4~5月は売上が減少しております。利用率が通常に回復するには一定程度時間を要すると想定しております

このように認可保育園では影響は軽微、プレスクールでは元に戻るには時間が掛かると会社では見込んでいるようです。では、現状影響を受けているプレスクールは同社が運営する保育園の中で、どの程度のシェアを占めているのでしょうか。下記の図をご覧下さい。

保育園の数だけでは、影響は計りかねますが、比率では圧倒的に認可保育園の方が多くなっております。上場時のインタビューで会社側は「売上の9割が認可保育所」(Kids Smile Holdings[7084]東証マザーズ IPO)と明言しておりますので、コロナ禍の影響は大きくないと思われます。
ただし、ハイエンドのプレスクールは自由が丘、広尾・元麻布・代官山などにあるため保育料などの客単価が高いものと予測されます。ですので、それなりの影響はあると考える必要があります。
同業他社「ライクキッズ」のTOB
同業他社にライクキッズという会社があります。コロナ禍の影響で株価は暴落の憂き目に遭いますが、ここもキッズスマイルホールディングスと同様PERが低すぎたため、株価が回復局面の途中で親会社からのTOBが実施され、結果によってはこちらの株は上場廃止となる予定です。

ライクキッズTOBはもちろんプレミアムを付けての公開買付でしたが、そのTOB価格ですらPER7.6倍前後です。なかなかの低水準です。
しかし、あまりに低いPERでは買収を企図される可能性があることも分かりました。これはキッズスマイルホールディングスへの投資を考える上で、大変有り難い事例です。
まとめ:成長基盤・収益構造がしっかりしているのなら、気長に待つ
会社側による今後の市場環境は良好です。待機児童解消の動きは続くでしょうし、ライクキッズTOBなどによる波及効果も見逃せません。

また今後は、業界再編などの動きも出てくると予想されていますので、業界の勝ち組企業として生き残る為にはある程度の規模感が必要になると思われます。そのためには上場会社というステータスは重要になるでしょうし、幼児教育無償化も進む現在、キッズスマイルホールディングスは今後業績を拡大していく上で、比較的良い時期に上場を果たしたのでは無いかと思います。

株価もIPO時の公募価格2260円を割り込む水準ですし、1900円台での投資はそれほど悪くないと思っています。最低単元数の保有に留めていますが、今後の業績推移によっては保有数の変更も考えていきたいと思っています。
1日も早い、株価の水準訂正があることを祈って……。
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