コロワイド vs 大戸屋 TOBバトルの行方は?
コロワイドが創業家株式を買い取る形で大戸屋の大株主となり、経営陣の刷新を図るべく株主総会に株主提案を行った時からわずか2週間。コロワイドと大戸屋を巡る騒動はついに敵対的TOBにまで発展しました。

コロワイドは、大戸屋の株式のおよそ19%を保有する筆頭株主ですが、経営方針をめぐって対立しています。このため経営への影響力を強めようと、株式の保有比率を51%余りに高めて子会社化することを目指し、今月10日からTOB=株式の公開買い付けを始めました。
これに対し大戸屋は、20日、臨時の取締役会を開き、社外取締役を含む取締役11人全員の一致で、コロワイドのTOBに反対することを決めました。
理由について、作業の効率化のため店内での調理を見直すというコロワイド側の提案は、顧客に提供する料理の品質低下を招き、大戸屋のブランド価値を損なうおそれがある、などとしています。
大戸屋ホールディングスの窪田健一社長は記者会見で「今の経営陣で中期経営計画を着実に実行することで、成長戦略を推進する」と話しました。
大戸屋が反対を決めたことで、コロワイドによるTOBは敵対的買収に発展することになります。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200720/k10012524891000.html
コロワイドと株主総会で激しく対立している以上、仕掛けられたTOBに賛同する訳もなく敵対的買収になるのは時間の問題でした。しかしながら、市場が一番期待したのは大戸屋の買収防衛です。
コロワイド以外のホワイトナイト(白馬の騎士、敵対的買収に代わって友好的買収を行う者)を連れてくるか、あるいは経営陣による買収(MBO)で対抗するか、はたまた優待増額によって株価を吊り上げて、コロワイドの提示したTOB価格を無力化するか……。
様々な対抗策が考えられましたが、今回の大戸屋のリリースにはそういう具体的な動きは一切無く、若干拍子抜けでした。リリースの文面は居丈高な言葉が並んでいますが、言葉でしか対抗できない実情が垣間見えます。

正直言って、この程度の反論で株主たちを大戸屋側に引き留めておけるのか甚だ疑問です。大戸屋は自分たちを過大評価しているのではないか、とさえ思えます。お客様本位でオンリーワンの町のごはん屋なのに、どうして業績が悪いのでしょうか。この謳い文句が正しいのなら、もう少し利益を上げられる企業体質であってもおかしくありません。営業利益率が2~3%台で2017年3月期からは最終利益が連続減益で、売上も横ばい推移が精一杯ではコロワイド問題が無くても株主は不満だったはずです。

2023年3月期を見て欲しいと大戸屋は言うが……
大戸屋経営陣が主張する内容は、結局コロワイドが経営に関与すると、さらに業績は悪化するが、我々経営陣に任せて貰えれば2023年には会社を良くして見せましょう、だからコロワイドのTOBには応じないで下さい、というものです。
しかしながら、2023年3月期まで待つのは長すぎます。目の前に3000円台で売れるチャンスがあるのに、それをみすみす逃すのは大戸屋株主にとって余りにも勿体ない話です。
さらに言えば、2023年3月期の数字はいわば絵に描いた餅でしかありません。実際にこうなるとは誰も保証してくれませんし、全てが上手くいったとしても経常利益率3.3%でしかないのです。利益が出ていた2017年頃の数字に、多少上積みされた程度の伸びしろしかないのであれば、2002年の上場来高値である3270円に近い現在の株価水準で売るのが得策と考える株主がいてもおかしくありません。

このままではTOBは成立の公算
おそらく、対抗策の原資も手段もなく、コロナ禍で味方する企業もいない大戸屋にとって、このままではコロワイドの傘下に入ることを甘んじて受け入れるしか道は無いと思われます。
例えば自社株買いでコロワイドの株式を十分な高値で引き取る、あるいは経営陣が自ら資金を調達し自社買収(MBO)を行う、もしくは高配当で株価をさらに引き上げてコロワイドのTOB価格より株価を大きく上げてしまう、などの方法が取れれば良いのですが、実際には大戸屋は赤字で、自己資本比率も37%しかなく、自社株買いや高配当で株主を惹き付ける、などができるはずもありません。
MBOも経営陣に豊富な資金や自社株を保有していれば、買収資金に事欠きませんが彼らは大株主でも何でも無い状態です。その場合、経営陣はMBOの手法を以て、投資ファンドと一体となって自社を買収するか、もしくは自社の資産を担保として借入をして買収を行うなどの方法があります。
しかしながら、このコロナ禍で経営そのものがピンチである企業にそう簡単に投資ファンドが出資するとも考えにくく、また外食産業という形態では不動産業界のように担保が社内にぎっしりある場合と異なり自社の資産はお店の土地建物・什器ぐらいしか担保になりません。しかも、これらはお店そのものが売り上げ不振に陥れば、その時点で土地・建物の減損処理を行う必要が出てきます。つまり担保価値が目減りするのです。
通常の環境なら問題ないことでも、コロナ禍で大打撃を受けた業界へ資金を投じるのは困難な状況であることは誰であっても容易に想像できます。
これは同様に、大戸屋への友好的買収を仕掛けるホワイトナイトがいないことも示唆しています。
これらのことがあるからこそ、大戸屋は言葉で反論し、情に訴える手段しか持ち合わせていないと言えるでしょう。具体的な対応策が無いのなら、このままではコロワイドTOBの成功を黙って受け入れるしかありません。
東洋経済新報社のホームページでも、以前から「成立の可能性大」とする記事が載っています。

45%ものプレミアムでTOB成立の可能性大
おそらく、このまま大戸屋側の無策が続けば、コロワイドが議決権の大半を握ることになるであろうと思われます。
そもそも大戸屋はコロワイドをバカに出来るのか?
大戸屋はコロワイドを店内調理もできないセントラルキッチン方式の画一的で特徴無い外食チェーンと見下していますが、大戸屋はそれほど素晴らしい企業なのでしょうか。
ここ最近の業績不振は以下の通りに纏められています。
- 2018年7月と2019年4月のメニュー改定による値上げ
- 人気メニュー「大戸屋ランチ」を低採算理由に廃止
- りんくうシークル店のアルバイト従業員が裸の下半身を店のトレーで隠す動画を作成、投稿
- 2019年後半にメニュー再改定、ランチ復活の迷走
大戸屋としては店内調理が魅力のはずだが、常連の顧客にすら浸透は薄い。競合と差別化する最大のポイントがうまく認知されていない状況では、値上げしては客が離れ、少し値下げしたくらいでは戻ってこないのも当然の結果
https://toyokeizai.net/articles/-/320120
これらを見る限りはっきり言って、経営の失敗です。メニュー料金改定・ランチ廃止から朝令暮改のごとく復活させる、など迷走ぶりが見て取れます。かつアルバイト店員が業務中にくだらない動画を投稿するなど社員教育の不備も見受けられます。不衛生さを顧客にアピールしているようなものです。
この状況でコロワイドのことを云々する資格があるのかどうかは疑問です。
しかもコロワイドのTOBを蹴るということは、株主に3000円以上の高値で株を売却させるチャンスを潰すことを意味します。これは株主利益を考えない、株主からの付託を無視する言語道断な行為とも言えます。
これでは株主利益を潰し、自己保身に走っていると批判されても仕方ありません。
彼らのやることは、コロワイドと協議し買収額をもっと上積みさせて株主に高く売却させる機会を与えることです。
店内調理は素晴らしく美味しいのか?
大戸屋の味を調べてみようと、グーグル検索で「美味しい」と入力しようとした結果が、こちらです。美味しくない、美味しくなくなったなどという品質低下を嘆く検索ワードが複数登場します。

美味しくなくなった、美味しくない、というネガティブワードも散見されます。特に美味しくなくなったと感じる顧客がいることは、提供している品質の劣化が心配されます。メニュー改定・価格改定の混乱期に品質が落ちたと受け止めた顧客が相応に存在することは会社側も認識しているはずです。
それを感じているからこそ、客数回復・調理オペレーションの最適化、などの単語が中期経営計画で出てくるのではないでしょうか。
美味しく調理できるからこそ店内調理は輝くのです。店内調理を続けても美味しくなくなったのなら、それは自らの競争力を捨てている行為に等しいと言えるでしょう。


大戸屋には、てこ入れが必要
コロワイドの存在がどう、とかそういう問題以前に、大戸屋には問題が山積しています。しかもコロナ禍でさらに打撃を受けています。本来なら、こういう状況になれば何らかのてこ入れ、つまり他者の助けを必要になるはずです。コロワイドがせっかく手を上げているのだから、それに応じれば良いのでは無いかと思います。
コロワイドの悪評を恐れているのだと思いますが、このまま単独でこのピンチを乗り切れるとも思えません。例えコロワイド問題を奇跡的に切り抜けられたとしても、今までの経営陣が居座ったままでは早晩また問題が浮上するでしょう。
会社側は株主優待を増額することで引き留めを図っていますが、わずかな優待金額で惹き付けられる株主がどれだけいるのか疑問です。大戸屋の株主は決断する時が来たのでは無いか、と思います。


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